目標の設定方法
スポーツの目標設定は難しい!
今シーズンの目標を決めるのに2ヶ月費やす
年が明けました。
どのチームも世代が変わり、そろそろ体制が整ってきている頃だと思います。
ちなみに岩手大学はつい先日今シーズンの目標が決まり、これから練習メニューを決めていくところです。
・・・遅くない?
多分この記事を読んでいただいている指導者や選手の方はそう思ったのではないでしょうか?
たしかに遅いですw
ツイッターやブログ等を見ると、だいたいどのチームも目標設定に関しては世代が変わって次の主将が決まったタイミングで済んでいます。
今までの岩手大学もそうでした。
世代が変わるのがだいたい10〜11月なので、
(悔しい!ホントは勝ち上がって12月まで試合したい!)
どんなに遅くても12月に入るまでには来シーズンの目標は決まっています。目標を考える期間は1〜2週間くらいでした。
しかし今回は約2ヶ月です。
なぜここまで時間がかかったか?
そもそも目標設定とは何なのか?
今回はこの「目標」について持論を紹介したいと思います。
これまで設定した目標
まずは、これまで僕が携わったチームで設定した目標(現役時代も含め)を紹介します。
「日本一」
「学生日本一」
「全日出場」
「打倒岡山」
「東北制覇」
ちなみに、このどれも達成したことはありません。
面白いのが、これらの目標のだいたいが一歩手前で終わっていることです。
「東北制覇」を掲げれば準優勝、「打倒岡山」を掲げれば岡山大学に負ける…
こんなことを繰り返していると、
目標って何なのか?
設定することに意味はあるのか?
と疑問に思ってしまいます。
この疑問が目標設定について考えるきっかけとなりました。
一般的な目標設定法
「目標の設定方法」は最近メディアでも取り上げられることが多いです。
そのため、
目標はどう設定すべきか?
という問いに対しての答えはほぼほぼ確立されていると思われます。
特に主流なのが「SMART」という頭文字をとった目標設定の法則です。
SMARTの法則をラクロスの指導環境に当てはめたとき、参考になる考え方は以下の4つです。
- 目標は具体的に
- 目標は数値で示せると良い
- 目標は現実味がないと意味がない
- 目標は覚悟である
このように見ると、どれも聞いたことあるような考え方だと思います。そしてどれも間違ってはいないはずです。SMARTを知らなくても多くのチームはこのような考え方のもと目標を設定しているだろうし、実際に僕自身もそうでした。
では、ここからは上記4つの目標設定の考え方について、ラクロスの指導環境で実践できるかどうかを考察してみます。
「目標は具体的に&数値でも示す」の是非
目標は具体的かつ数値もという考え方は、会社の営業部署のような環境では有効かもしれません。
例えば、
「目標達成まであと100万足りない」
という具体的な数値があれば
「じゃあ、これとこれとこれを組み合わせて100万の売上を作ろう」
と計画を立てられます。
また、この目標設定法は個人目標の設定をする上でも有効かもしれません。
例えば、
野球のピッチャーとして
「150キロを出す」
という数値目標があれば、現時点から足りない部分を強化するための活動計画が立てられ、達成度も測定できます。
では、この具体的かつ数値も考えた目標をチームスポーツの「チーム目標」として設定する場合はどうでしょう?
おそらく、やるとしたら
「10勝する」
「東北1位」
といった感じの目標になるかと思います。
よくある目標設定ですが、問題はイメージしづらいということです。
営業数字目標と違って、何をどこまでやればいいかがイメージしづらいので、カタチだけの目標になりがちです。
スポーツのチーム目標としては、具体的数値目標を設定するのはあまり良くないかもしれません。。(段階的な細かい目標であればいいかもしれませんが)
「目標は現実味がないと意味がない」の是非
今月の営業数字が100万だった社員に対して、
「来月の目標は売上1億だ!」
と言ったら当然無謀です。
スポーツのチーム目標においても同様で、
地方リーグで下位レベルのチームが
「目標は日本一だ!」
と掲げても無謀でしかありません。
いくら強い思いがあったとしても、現実を見れていない目標では全員を同じベクトルに向かわせることはできません。
このように考えると、スポーツの現場においても現実的な目標設定は大切そうです。
但し、ひとつ問題があるとすれば、「大きな改革」には不向きだということです。改革とは誰も思いつかないようなアイディアと行動力が必要になってくるので、現実的に考えすぎてはうまくいかないかもしれません。
「目標は覚悟である」の是非
目標は覚悟であるというのは、目標を立てるからにはそれ相応の取り組み方をしなければならないという意味です。この覚悟によって練習への取り組み姿勢が大きく変わってきます。この取り組み姿勢を僕はメンタリティと言っています。ちなみに、先ほどこれまで掲げた目標を紹介しましたが、その全てがそれ相応の覚悟をもって設定していたと思います。至らぬ点があるとすれば、その覚悟が甘かったということです。目標を達成したいならそれ相応の覚悟ではなく、目標を通過点にしてさらに先まで到達する覚悟が必要かもしれません。
また、目標は覚悟ということに関して言えば、覚悟を起こさせる目標かどうかというのも重要なポイントです。
目標を立てたはいいが、目標達成のためのイメージがわかず覚悟が決まらない場合があります。(岩手大学ではこのパターンがほとんどでした)
少なくとも、結果的な目標(日本一、全日出場など)ではイメージがわかないので覚悟を決められない気がします。
「目標設定の考え方」は大事だけどどうでもいい
ここまで考察してくると、スポーツのチーム目標を設定する上では、SMARTの法則のような考え方はベストではないと思われます。良い面もあるし悪い面もある。特にチームの意思統一を高めたり、同じベクトルを向かせたりする目標になりにくいのが大きな欠点です。最初からモチベーションが高いプロの選手達ばかりならいいですが、高い人もいれば低い人もいるという学生スポーツの環境です。その環境でチーム作りをするならSMARTは合っていないというのが僕の結論です。
決めるべき目標は「無形目標」だった!
有形目標と無形目標
ここまで「目標設定の考え方」についてお話ししましたが、ここからは「目標の種類」についてお話ししたいと思います。実はこの目標の種類を知っているかどうか、または気づいているかどうかが「目標設定のカギを握っている」と僕は思っています。
目標には有形と無形があります。
有形の目標とは「結果として残るもの」
無形の目標とは「はっきり結果が残らない、現れない抽象的なもの」
です。
わかりやすい例で言えば、
有形目標は「学生選手権優勝」
無形目標は「速いラクロスをする」
といった感じです。
ちなみにこの無形目標はスローガンとして設定するチームもあるかもしれません。
例えば、前年度学生優勝の早稲田大学は「攻」というスローガンを掲げ、それを体現するかのようなラクロススタイルを貫きました。
このように考えると、僕が「設定する意味がない」と思っていた目標はすべて有形目標にあたります。
そして、有形目標だけを設定して無形目標を全く設定していませんでした。
この「無形目標」こそが、力を入れて、時間をかけて設定すべき目標だったのです。
実は無形目標を設定していないチームは多い?
無形目標を設定していないチームは多いのではないかと僕は思っています。岩手大学もそうでしたし、東北や関東のチームのホームページを見てもそれらしい無形目標は見当たりませんでした。
「いやいや、スローガンはちゃんと設定していたよ」
と言われるかもしれませんが、この「スローガン」という言葉は要注意です。*2
「無形目標=スローガン」ではない!
先ほど、早稲田大学が「攻」というスローガンで優勝したという例を挙げました。僕が現役の頃からそうですが、早稲田は有形目標「日本一」を設定するとともに、シーズンの取り組み方を象徴する言葉を考え、それをスローガンとして設定します。
実はこの「スローガンの設定」はいろんな大学チームで行われており、言葉のセンスが問われるチームのPRみたいになっていますw
(あくまで僕の個人的な印象です)
例えば、岩手大学で言うと
「revival」
「原点」
「貫徹」
といったスローガンを以前設定していましたし、
早稲田大学は
「滾れ」
「CHANGE」
「攻」
といったスローガンを設定していました。
これらのスローガンを読み解いていくと面白いことに気づきます。
それが、
「攻」というスローガンだけが「ラクロススタイル」に直結している
ということです。
他のスローガンは運営面や部としての在り方をメインに考えられたものであり、
「どんなラクロスで勝っていくか」
「どんなラクロスを展開するか」
という「ラクロススタイル」がイメージしづらいものになっています。
このラクロススタイルが僕の考える無形目標です。
そのため、ラクロススタイルを現していないスローガンは無形目標ではありません。
そのようなスローガンは「目指すもの(目標)」ではなく「取り組み姿勢(メンタリティ)」を表した言葉に近いのかもしれません。
ここからは空想と妄想の世界ですが、おそらく早稲田の選手やコーチ陣は「攻」という目指すべきラクロススタイルを設定できていたことで、チーム全員の迷いが少なかったのではないかなと思います。「こういうラクロスを俺たちはやるんだ」というわかりやすさは"試合中"にチームが一体となり良い連携を生みます。これが仮に、「〇〇のために戦う」「〇〇の精神で戦う」とかだと、"思い"が先行して"プレー"の一体感がないので、連携というよりは個人プレーでなんとかするような試合展開になりがちです。もちろんそれで勝つパターンもよくありますが、今年の早稲田の試合からはチームの"連携""連動"を今まで以上に強く感じました。
無形目標(=ラクロススタイル)の設定
というわけで、以上のように考えた結果、岩手大学では今シーズンより無形目標を設定することにしました。
無形目標は
「All-Out Attack(総攻撃)」
有形目標はあえて設定していません。
この無形目標を設定する上では、
どんなラクロススタイルを魅せたいか?
どんなラクロスを貫きたいか?
という議論から始まり、
全員がそのスタイルをイメージできるか?
イメージできたらそれを象徴する言葉はなんだ?
という話し合いを重ねました。
これに約2ヶ月使いました。
この無形目標が示す具体的なラクロススタイルがどういうものかということは今は書きませんが、新たな岩手大学のスタイルとして挑戦していくやりがいのあるものになると思っています。
乞うご期待!笑
ちなみに、この無形目標や有形目標といった考え方は、原田隆史さんの考え方がもとになっています。「目標設定」という意識高い系で身構えてしまうようなワードに対して、具体的で実践的、かつ子ども達でもできると評判だったので見てみました。とても参考になりました。