こんなに差があるとは思わなかった
アメリカに勝つには…
CROSS CROSSEに参加してきました
東北ユース選抜の活動の一環で、2月21、22日に岡山で行われたCROSS CROSSE(クロス クロッセ)に参加してきました。平日だったので移動のことも考えて3日間有休をいただき(本当にいい会社です!念のため会社への感謝とフォローを入れておきますw)、アメリカのトッププロのクリニックを受けてきました。
コーチを務めてくれた方々は以下の4名です。
Mark Glicini
(MLL bayhawks MD)
https://www.thebayhawks.com/players/mark-glicini
Martin Bowes
(MLL Florida launch MF)
http://www.floridalaunchlacrosse.com/players/martin-bowes
Shane Carr
http://www.yalebulldogs.com/sports/m-lacros/2015-16/bios/carr_shane_ilwk?view=bio
Mark flibotte
https://athletics.bowdoin.edu/sports/mlax/2011-12/bios/flibotte_mark_pgsg?view=bio
第一印象としては、とにかくみんなデカイということですね。背が。全員180cm後半以上です。
そして年齢も僕のほうが全然上というのも驚きです。あまり実感ないのですが、僕も気がつきゃ35歳になる年でした。。
クリニックの内容
クリニックはざっくりと以下の日程で進みました。
<1日目>
・Session1 individual(個人スキル)
・GAME
<2日目>
・Session2 individual(個人スキル)
・GAME
・Session3 team(チームスキル)
・GAME(サムライルール)
個人スキルでは2-2の考え方がメイン、チームスキルでは数的有利の考え方がメインといった感じです。最近の流行りですね。
僕個人としてはホール(ゴール前スペース)の考え方がとても印象的でした。おそらくこのホールは国籍問わず誰もが狙うポイントだとは思いますが、彼らがここを狙う意識は相当強いです。イメージとしては、
「ホールが空いたら飛び込む」
ではなく、
「"ホールに飛び込む前提"でその直前のプレーを行う」
といったところでしょうか。
なので、ピックを仕掛ける選手は「ホールに飛び込んでどっちの手でキャッチしてどう打つか」まで考えた上でピックに入っています。
おそらく多くの日本人(特に学生)は、ピックを仕掛けるときは「スクリーン前提」で仕掛けるはずです。なので、スクリーン後のプレーが遅いですし、スクリーン中にキャッチできるほど体勢は整っていません。
この違いが、「ピックフェイク」というオフェンス要素を生むのでDFはより気が抜けなくなります。
このピックというシンプルな行為にどれほどの狙いを込めているかというポイントは勉強になりました。
夜のクリニック
夜はアメリカvsカナダの動画を見ながら座学を行いました。トッププロ達が普段どんな分析・スカウティングをしているか、またはゲームをどのように作っているかを知るとてもいい機会でした。
僕もいくつか質問させていただきましたが、ゲームに対する考え方や意識は日本とさほど変わらない印象でした。数的有利はこだわっていましたし、オフェンスの作り方も僕が思っていた通りの作り込まれ方でした。ディフェンスも特に特筆するような考え方はなく、どれだけアタマを使うかを熱弁していました。
このあたりで日本と大きな差があるとは思いません。今の日本とアメリカの差はもっと別のところにあるなと感じました。
そんなわけで、前段が長くなりましたが、今回は日本とアメリカのラクロスの差について「個の力」という視点で僕が感じたこと、そしてこれから日本のラクロス選手達にどんな指導をしていかなければいけないかをまとめたいと思います。
体格の差
アメリカ人と日本人の個の力というポイントで考えると、体格の差はかなりあると思います。とりあえず180オーバーが当たり前、かつ普段からのトレーニングなのか遺伝なのかステロイド(失言)なのか「厚み」のあるガタイです。
昔から日本は
「海外のチームにはカラダで勝てないから別のところで勝機を見出す」
というスタイルで戦っていますが、なるほど、あのガタイを見たらそう思わざるを得ないと思いました。
ただ、ラグビー日本代表がフィジカルをないがしろにせず、逆に強化して海外と良く戦った事例もあります。この影響はラクロスにも及んでいて、フィジカルを重視するチームが増えているのは確かです。
しかし、ラクロスにおいてはそのフィジカル強化の立ち位置を誤ると良い結果に繋がらない場合が多いので要注意です。この点については後程説明したいと思います。
技術の差
結論から言うと、この「技術」がアメリカと日本の大きすぎる差です。
技術と言っても様々ですが、僕は
「投げる」
「捕る」
という技術に大きな差があると感じました。
投げる精度
まず「投げる」ですが、彼らはボックスを外しません。精度が段違いに高いです。的当て大会みたいなことをやりましたが、10mくらいの距離から直径20cmの的であればほぼ外すことなく打ち込んできます。
さらに、それはどんな投げ方であっても同様です。静動、上下左右、リリースのタイミングを変えても狙ったところにキッチリ投げてきます。
逆に日本の選手は、トップレベルの選手はわりと精度高く投げてきますが、一般レベルではかなりバラツキます。ボックスに投げようと思ってもほとんどの選手がしっかり投げられません。
と言うか、そもそも毎回のパスキャッチで「ボックスに投げること自体にこだわっている」チームは少ないです(社会人のトップチームは相当ボックスにこだわってますが)。だいたいのチームはキャッチできればボックスに飛んでたかどうかは忘れてしまいます。それくらいの弱い意識です。
捕る精度
捕る精度、つまりキャッチ力ですが、これもアメリカは段違いに高いです。特にそれを感じたのは、一緒にゲームをした時、自分(MLL選手)のマークマンにパスが出て、そのマークマンが少し触って弾いたボールをそのまま空中で捕ってしまった瞬間です。言葉では説明しづらいですが、野球のファールチップみたいな感じでカスって逸れたボールを瞬時に反応してキャッチしたような感じです。ちなみに弾いて逸れたボールはほとんどスピードが落ちていません。
普通、自分の目の前のマークマンに出たパスの軌道が変わってしまったら反応することは難しいです。しかもマークマンは動いてもらっていたので、当然マークしていたMLL選手も相手に合わせて動いています。その状況で弾かれたボールを空中でダイレクトに捕れる感覚は相当レベルが高いと思ってしまいました。
「投げる&捕る」精度が高いとこうなる
この「投げる精度」と「捕る精度」が高いとどうなるかと言うと、
パスに意志を乗せられる
ようになります。
例えば、敵が死角から迫ってきている状態の選手に向けてパスを出すとき、キャッチした後に敵のプレッシャーを受けにくい場所に投げてあげる。これができるとキャッチする選手も、
「あ、ここに投げてきたということは敵がこの死角から迫ってきているんだな」
ということを感じられるようになります。
つまり、パス1つで敵の位置やその後の効果的なスペースの位置も伝えることができるのです。
また、他にもわかりやすい例で言うと、スペースにパスを出す「リードパス」なんかも意志の乗ったパスと言えます。
このような「パスに意志を乗せる」ことができればプレーの幅は格段に広がっていきます。
ゲーム中、MLL選手達は少し弱めのパスをスペースに出し、サッカーでいうスルーパスみたいな形も狙っていました。
2-2の練習でも、
「今の場面では少し浮かせ気味のパスをホールのこの位置に出して味方にこんな感じでキャッチさせろ」
的な指示をしていました。
「ラクロス2年目の選手に要求するレベルじゃねぇ〜笑」
と思ってしまいましたが、彼らは当たり前のようにパスに意志を乗せているのです。
ただただボックスに速いパスを投げられるだけではないのです。
ちなみに、投げる精度と捕る精度はだいたい同じ成長曲線で高まっていくと思われます。壁当てでも相手がいる時のパスキャでも、結局投げた分だけ捕るので。
要は、
うまくなりたかったらいっぱい投げろ
ということです。
実は見逃せない「投げる力」
技術が大事と言いながら力について話すのも変ですが、あえて言わせてもらうと
「力を鍛えることで技術が上がる」
ものがあります。
その最たるものが
「リストの力」
です。
このリストの力もアメリカ人は尋常ではありません。
このリストの力がどう技術に影響するのかということを説明します。
↓↓↓
リストの力が強ければコンパクトな振りでも強いボールを投げることができます。
つまり、コンパクトに投げる技術が身に付くのです。
また、リストの力はそのまま制球力に繋がります。クロスを握る安定感を生み出すのはリストの力だからです。
ただし、注意しなければいけないのが、
リストの力=スナップ
ではないということです。
野球や他のスポーツでもそうですが、スナップというのは誤解されているケースがほとんどです。そもそも、手首のスナップだけで強い力は出せません。なので、
「スナップを使って投げろ」
というのは表現としては間違いです。
例えば、野球では正しい投球動作をしている選手はボールリリースのときに手首は折れずに固定されています。
この腕の振りに負けて折れないように「手首を固定する力(リストの力)」が投球では重要なのです。
そしてこれはラクロスでも同様で、クロスは手首のスナップを使って投げることはできません。そもそもクロスを握った段階で、手首のスナップを使える向きにはなりません。なので、
「スナップではなくリストの力を使って投げろ」
が正しい伝え方となります。
アメリカに勝つには技術強化!
技術ありきのフィジカルであるべき
先程、フィジカル強化の立ち位置を誤ると良い結果にならないことが多いと伝えました。立ち位置とはつまり、フィジカルと技術のどちらをベースに置いて強化していくかということです。
僕はこのベースを技術に置くべきだと思っています。
「フィジカルを鍛えてヘロヘロになるよりも、1球でも多く投げてヘロヘロになるべき」
という考えです。
特に大学チームを指導するなら尚更この考えを持つべきだと思っています。
理由としては、
・フィジカルに特化したチームが優勝していない
・いつまでもファルコンズが勝ち続けている
という2つからです。
「社会人に勝つためには学生の強みであるフィジカルを生かすしかない」という考え方がありますが、結局勝てていません。
「いやいや、早稲田はフィジカルのチームじゃん」という意見もあるかもしれませんが、今や技術重視のチームです。
「いやいや、ファルコンズはフィジカルもすごいよ」という意見もあるかもしれませんが、結局技術で差がついています。
フィジカルはメインでもベースでもなく、所詮「オプション」です。フィジカルで差をつけたところでラクロスの試合結果にはさほど影響しないことにそろそろ気づかないといけません。
大学ラクロスはフィジカル強化に一生懸命
現在、日本の大学ラクロスはフィジカル重視の波が来ています。しかし、大学ラクロスは野球やサッカー、ラグビーとは毛色が違います。そもそも99%が大学から始めるので、技術力ゼロのド素人からのスタートです。
例えば、いくらフィジカルに優れた1年生がいたとしても、4年生と試合をしたらまず間違いなく4年生が勝つはずです。そして今回のCross Crosseではその4年生が1年生であるかのようにコテンパンにされました。フィジカル勝負の土俵にすら立てないのです。(立てたところでどうなのか…という気はしますが)
つまり、アメリカは日本に対して、4年生が1年生を相手にするときと同じくらい余裕を持って戦えるということです。
仮にアメリカのトップ選手の技術力を10としたら、通常大学4年間で鍛えられる技術力は良くて4〜5くらいです。この程度の技術力しか鍛えられていないのにフィジカル強化を重視するのはナンセンスです。
そして、そのことを考えると、技術力に関してはもっともっと高いところまで上げられる余地(伸びしろ)があるということにもなります。本来良くて4〜5くらいの技術力を、やり方次第では4年間で7〜8くらいまで上げられる可能性があるということです。
フィジカル強化がラクロス能力向上に直接的に繋がるかはわかりませんが、技術強化は直接的にラクロス能力向上に繋がります。
4年間という短い期間でムダを省き、より効率よく「ラクロスの結果」に結びつけるには技術強化をもっと重視するべきです!
まずは技術でアメリカに追いつく
現在、この技術力の差に気づいてからは、選手達に筋トレをさせている時間がバカバカしいとさえ思っています。筋トレで疲れ切ってる選手達の姿を見ると、バーベルよりもクロスを握れと思ってしまうのです。
ボールゲームにおいて、技術はフィジカルを簡単に凌駕します。
逆にフィジカルを鍛えたら簡単に勝てるボールゲームを僕は知りません。
特にラクロスにおいては、道具を使って投げて走ってと、ボールゲームの中でも相当複雑なスポーツです。それはつまり他のスポーツ以上に技術力が問われるということです。
日本のラクロスは技術が全然足りません。アメリカに勝つためにはもっともっと技術力強化の方針を打ち出す必要があると僕は思っています。