No.6戦術について
ショート6人がオフェンスする必要はあるか?
おはようございます。岩手大学HCの佐藤陽一です。
最近メッセージやDM等で「ブログ見てるよ~」と声をかけていただくことが多くなり、恥ずかしい反面嬉しく思っています。本当にありがとうございます!嬉しいです!
そういった中で、以前書いた以下の記事について。
この中でちょこっと書いた戦術に食いつかれた方が意外と多く、結構な反応をいただきました。
ただ僕としては最近は運営面に関するチャレンジに思考を全振りしてたので、
「え?そっち!?」
となってしまい、熱くなるはずの戦術談義に乗り遅れてしまいました。。笑
今までなら戦術談義は大好きだったのに、あっさりした対応をしてしまいました(-_-;)
というわけで、今回はちょっとだけ思考を切り替えて久々の戦術談義。
岩手大学がデフォルトとしているNo.6戦術についてお話ししたいと思います。
簡単な戦術概要
「No.6(ナンバーシックス)」という戦術はめちゃめちゃシンプルで、
セットオフェンス(ハーフオフェンス)時に「Short5人+Long1人」で攻撃する
というものです。
つまり、オフェンス中だろうがディフェンス中だろうが、常に
Short5人+Long4人+Goalie1人=計10人
の状態でいるということです。
No.6のプレー集も貼っておきます↓↓
きっかけ
この戦術が岩手大学のデフォルトになったのは2019年からです。
ただ構想自体は2016年の冬からあって、そのきっかけとなったのが当時の1年生でその後2019年度の主将を務めることになる川上慶の存在です。この川上世代は少人数ながらも新人戦で優勝をおさめた世代で、当時の川上は新人戦の得点王にもなるくらい攻撃的なプレーヤーでした。…が、1年の秋ごろから突然「ロングをやりたい」と言い始めたんですね。当時の僕は一瞬「ん?」となりましたが、これは面白いかもと思って川上のロングを了承しました。これが攻撃型ロング誕生のきっかけです。
ただ残念なことに、川上は膝の故障によりまともに活動することができなくなり、復活できたのが4年時からだったので、この戦術はその間オープンになることはありませんでした。(ただ可能性の1つとして考えてはいたので、練習中からロング陣にはショート陣と同じくらいのシュー練を課していました)
結果的に川上の復活後、この戦術はオープンになったわけですが、いくら戦術としての構想があったとは言え、それをデフォルトにするところまでは普通は思い切れません。
(おそらくロングをオフェンスに置くという発想はそこまでぶっ飛んではいないので、過去にはどこかのチームも考えて実践するところもあったと思います。でもそれは多分「奇策」としての戦術であり、それをデフォルトまで昇華させようとしたチームはまずないと思っています)
僕がこの戦術を「デフォルトまで昇華させよう」と思い切れたのは、岩手大学が少人数チームだったからです。
その当時の問題として、
・MFセットが2セット作れない
・仮に作ったとしても極端に能力の劣る下級生(1年生)を出すことになってしまう
というのがありました。
これらのことがあったのでMFのセットを作ることを諦めたんです。(普通ならめっちゃネガティブな状況ですw)
その代わりにロングを常にオフェンスに参加させることで5人の主力ショート選手でAT、MFを入れ替えて出し続けることが可能になりました。
「No.6」という名前の由来
No.6の名前の由来は、「オフェンス6人目のプレーヤーがロングである」ということから付けました。そのため、この6人目のオフェンスロングのことを「No.6」というポジション名で呼んでいます。ちょっとラグビーっぽいですかね。
ちなみに秋田の有名な日本酒である新政のNo.6とは関係ありません(笑)
脱線しますが新政のNo.6はなかなか手に入りづらい希少酒です。旨いです。
メリット
No.6戦術のメリットを説明します。
メリットは、ざっくり以下の2つです。
①「Longのシュート」という武器をハーフオフェンスに組み込むことができる
②前線でのプレスが強化される
①についてはその通りで、ロングがシュートを打てればそれだけで結構なチャンスになります。逆に言えば、強いシュートを打てないロングはNo.6として機能しません。
そして②ですが、
No.6戦術の最大のメリットはこの前線のプレス
にあります。
ほとんどの人はロングがオフェンスしているとミドルシュートが最大のメリットと思いがちです。が、それは実は副産物にすぎません。僕がこのNo.6戦術で一番こだわっているのはこの
前線でのプレス=ハイプレス
です。
ハイプレスの有効性
ここからはゲームの流れを想像していただきたいのですが、
仮に自分達のチーム(青)がディフェンスをしていて、岩手大(赤)がNo.6戦術でオフェンスしているとします。
つまりこんな感じです。↓
この状態からゴール裏でグラボになりボールを奪うことに成功したとします。
そうなった場合、通常であればオフェンス側のチーム(赤)はすぐさま選手がフライしてロングと入れ替わるでしょう。(選手層が厚ければDFMFとも替わります)
しかし、No.6戦術ではその必要がありません。
フライしない分、相手のクリアに対して早い段階で強めのプレスを仕掛けることができるのです。これによりプレスの強度が格段に上がります。
さらに言えば、No.6の選手自体をゴールからなるべく遠い位置でオフェンスさせておけば、相手が早い飛び出しでブレイクを狙ったとしてもわりと簡単に阻止できます。基本的にゴーリーセーブからのブレイクはNo.6のシュートを完全にセーブしない限り難しくなります。
No.6戦術への対応
ここまで説明すると、戦術好きの人はこのNo.6戦術に対してどうディフェンスするかを考えるはずです(笑)
色んな方法を議論したいところではありますが、ひとつだけ一番やってはいけない悪手を紹介します。
ちなみに昨年このNo.6戦術と戦ったことがある大学のほとんどすべてがその方法をとってきました。(唯一それをやってこなかったのは早稲田大学だけでした)
それが、
No.6に対してロングをぶつけてくる
という方法です。
一見すると「ロングvsロング」になるので奪いやすい気がするのですが、No.6にロングを当てるということは、他のショートオフェンス5人を単純に動きやすくするだけです。さらにロングがNo.6に引き出されると中のスペースが広がるので、自らDFを崩しにいっているようなものです。
また、仮に「ロングvsロング」でマッチアップしてボールダウンさせたとしましょう。でも、ボールダウンさせた相手はNo.6というロングです。その後にまた奪い返しに激しいプレッシャーをやり返してきます。(ちなみにNo.6はチームで一番のロング選手を任命するので、そこそこ強いプレスをしてきます)
というわけで、結局「ロングvsロング」はカオスにしかならないのです。しかも、これがライド時の「ロングvsロング」の状況と大きく違うのは、自分達(DF側)の陣地でライド時以上の混戦グラボのカオスが起こるということです。このカオスは失点のリスクを高めます。DF的には自分達の陣地内でのグラボカオスは避けたいはずです。
と、いろいろ説明しましたが、そうは言ってもどんな戦術にも穴はあるので、「それされたらムリ~」という仕方のないものはあります。
でも、こういうのを考えるのって楽しいですよね。
デメリット
No.6戦術のデメリットは
・体力の消耗が激しい
・No.6の選手の能力(例えばシュート能力とか)が低いと無意味
の2つです。
まぁ当然と言えば当然ですね。
なのでデメリットを薄める選手強化をするしかありません。
最後に…
このNo.6戦術を取り入れる際にラクロスの戦術に対して思っていたことがあります。
それが、
オフェンス6人が"ボールに絡んで"得点をとることはほぼない
ということです。
つまり、ラクロスのオフェンスは
ボールに絡む選手は多くても4人くらいで、他の選手はオフボールの動きで連携しているだけ。
すなわち
ショートが6人揃ってなくてもオフェンスは成立するし、オフェンス力も落ちない
という極端な考えから僕の思考はスタートしています。
この「ショート6人いらない説」をどう思うかは人それぞれだとは思いますが、僕はもう一つラクロスというゲームに関して解せないことがあります。
それが、
フィールドにはロング選手は4人までしか入れない
というルールです。
どうしてこんなルールができたのでしょう?
おそらく、
「5人以上入ったら有利になるから」
だと思うんです。
僕はこのルールこそロングの可能性を示しているものだと思っていて、
「ロングは"常に"フィールドに4人いなければいけない」
と置き換えてこのルールを捉えています。
ラクロス戦術は深いです。でも全然掘り進められていません。ニッチャーな岩手大だからできる戦術の挑戦もまだまだあります。
次はどんなことをしてやろうか(笑)
とても楽しみです。また面白い案ができたら公開したいと思います。
と言いつつ、あんまり公開しすぎると部員達から「何をすみずみまでモレなく公開してんすか!」と突っ込まれそうですね。笑
でも、戦術だろうが取り組み方法だろうが僕はたくさん公開するし、するべきだと思っています。
昔はそんなことは全くなく、戦術とかはひた隠しにしてきたんですけどね。
でも最近になって気づいたのは、その隠す行為はチームの成長、自分の成長を止めてしまうということです。
最近、たくさん発信&公開することで、僕のもとには有益な情報がたくさん集まるようになりました。そして、その情報の掛け合わせからチーム強化のための全く新しい発想が生まれています。
逆にこれを隠してしまう人のもとには情報が入ってきません。なぜなら、隠す人にいい情報を教えたいと思えないからです。「こんないい情報をくれたのなら、自分もいい情報を渡してあげたい」と考えるのが人情です。
そしてその情報の循環の多い人ほど成長するし、そのコーチ自身の成長がチームの飛躍的な成長に繋がります。やっぱり、自分自身の成長を考えられないようなコーチはチームを強くすることはできないと思います。
チームの成長ばかりではなく、コーチ自身の成長にも目を向けようというお話でした。
今回は以上ですー!