少人数チームの戦い方

数の利はあるか?

100vs40

 前回の記事でも触れましたが、岩手大学の毎年の入学者数は約1,000人で、全体の学生数は単純計算で約4,000人程度です。

 

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そんな中、岩手大学ラクロス部男子の部員数は約40人となっています。ちなみに今年は選手スタッフ合わせて16人の入部がありました。

これに対し、東北地区の長である東北大学の毎年の入学者数は約2,500人で、全体の学生数は単純計算で約10,000人程度です。そして東北大のラクロス部の部員数は約100人で、今年の入部者は40人を超えたそうです。ただ毎年そこそこの人数の退部者が出るそうで、ここから約半分ほどになると聞いています。(部員数が多いからこその悩みがあるようです。うらやましいですが…)

 

このように、人数だけ見ると、学生数に対する部員数の比率は岩手大も東北大もほぼ同じだということがわかります。また新歓に関して言えば、岩手大は今年も成功とは言えない人数だったので、全体部員も昨年とたいして変わらず40人程度に落ち着きました。結局今年も約40人で100人以上のチームと戦わなければいけません。

 

部員数はチームの強さに影響するか?

部員数とチームの強さの関係を考えると、部員数が多いマンモスチーム(100人を超すチーム)のほうが、少ないチームより圧倒的に有利なのは間違いありません。練習場所や施設、アルバイトなど、チームを取り巻く環境は様々ですが、とりわけ「部員数」という要素はチームの強さに最も大きく影響すると僕は思います。部員数の多いチームが少ないチームに負けるということは、よほどチーム運営と戦略をミスらない限りやありえません。(若干ひがみですw)

 

当然ですが、部員数が多いとそれだけで「層が厚く」なります。そしてさらに「チームの中の強い選手だけ」を選べるメリットがあります。これらだけでも相当有利なのは間違いないですが、実は試合結果を大きく左右する要因はマンモスチーム側ではなく少人数チーム側の要因が大きいと思っています。つまり、「マンモスチームの有利」よりも「少人数チームの不利」があまりにも大きすぎるのです。

 

マンモスチームと少人数チームのピラミッド構造

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上の図はマンモスチームと少人数チーム(岩手大)のメンバー構成を表したものです。

(ちなみに僕はこの図を使って、岩手大学はどういう戦略で戦わなければいけないかを話しています)

 

この図で説明しているのは、

  • 主力として試合に出るメンバーは交代枠含め最低でも15人必要である
  • マンモスチームと岩手大ではその15人の質が違う
  • 能力の劣る選手も主力として出さなければいけない

ということです。

その上で、ここで一番問題なのが、

自チームに能力の高い選手がいたとしても、自チームの能力の劣る選手がウィークポイントとなりゲームを作れない

ということです。

 

嫌な言い方をすると、

能力の劣る選手がチームの足を引っ張ってしまう

ということです。

 

能力の劣る選手は"人数の都合上"試合に出ているだけで「チーム内の競争」という厳しい環境から這い上がってきた選手ではありません。そのため、部を代表して出ているんだという責任感や使命感がなく、プレッシャーにも弱いため、致命的なミスを何度も起こしてしまいます。その致命的なミスは、能力の高い選手がカバーできるレベルではなく、結果としてゲームをコントロールできないまま自滅してしまいます。

これが、「マンモスチームの有利」より「少人数チームの不利」のほうが大きい理由です。 

指導者としての判断

さて、このようなチーム状況のときに僕は指導者としてどんな決断をしなければならないか?これは毎年悩んでいた問題です。

ただ、結局いつも

「能力の劣る選手は出さなければいけないからその上で戦略を考えよう」

とか

「能力の劣る選手を作らないようにボトムアップをしよう」

 という結論でチーム作りをしてしまいます。

 

ちなみに、この問題を部員たちに任せると、ほぼ100%の確率で

「コンバートを駆使してなんとかバランスをとる布陣で挑む」

という対策をとります。

 

しかし、このどれも失敗に終わっています。

 

能力の劣る選手を出しながらの戦略とは、言わば「ごまかし」の戦略です。

多少奇襲が成功したとしても、最後はマンモスチームの横綱相撲に押し切られてしまいます。なぜなら、どうしても能力の劣る選手の致命的なミスが発生してしまうからです。20回やって1回勝てるかどうかの綱渡り戦略では勝てるはずがありません。

 

また、ボトムアップに関して言えば、能力の劣る選手に基準を合わせてしまうため、今度は実力上位選手のためになりません。ボトムアップをチームとして本気で取り組むならその年を捨てる覚悟が必要です。とは言え、結局能力の劣る選手に合わせたボトムアップではうまくいかないのは目に見えています。

 

また、コンバートについては愚の骨頂です。

バランスをとろうとするコンバートは少人数チームがやったところでチーム全体の能力を均等にしてレベルを下げるだけです。武器を捨ててバランスをとる行為は20回に1回の奇跡も期待できません。

 

このように毎年毎年様々な対策をとってきましたが、どれもうまくいかないため、今年から考え方を一新することにしました。

 

今の僕の考えは、

「能力の劣る選手を捨て、超少数精鋭で戦う」

という戦略です。

この戦略の詳細については明らかにしませんが、要は

能力の劣る選手は試合に出さない

ということです。

 

と、ここまでの話だけ聞くと、勝てない理由を能力の劣る選手のせいにして、しかも切り捨てて考えるというのは指導者としてどうなんだと思われるかもしれません。さらに、実力が下の者を責める環境というのはチーム内でハレーションを生みそうです。

しかし、

岩手大学のような少人数チームにはこの状況をしっかりはっきり言わなくてはいけません。

これは能力の劣る選手のためでもあります。

言わなければ、危機感を持って練習しないからです。

この危機感は今回の記事の重要テーマです。

 

「向上心」は2種類

少し話は逸れますが、僕は「向上心」とは2種類あると思っています。

それが、

・「楽しい」「面白い」というプラスの心情から生まれる向上心。(前向きな向上心)

・「このままでは負ける」といったマイナスの危機感から生まれる向上心。(後ろ向きな向上心)

です。

 

一般的には、前者の前向きな向上心のほうが良いとされていると思います。が、成長のためにはどちらも必要です。

 

スポーツでいうと、前向きな向上心で身につく力は、際限もなく、クリエイティビティに富んでいます。単純な技術強化のためにはこの向上心が有効です。しかし、このような向上心で身につけた力は「脆い(もろい)」ことが多く、プレッシャーがかかる場面や想定外の事態が起こった時は十分にその能力が発揮されません。

逆に後ろ向きな向上心で身につく力は、地味なものが多いですが、その分厚みがあり、プレッシャーに強い印象です。そもそも、追い込まれた状況を打破するために身につけた力であるため、当然ながら多少のプレッシャーは問題ではありません。

 

危機感からの向上心

話を戻すと、少人数チームにおいて、能力が劣りながらも試合に出ている選手は、まさにこの「危機感」を感じにくい傾向があります。人数が少ないためにチーム内での競争が緩く、そこまで頑張らなくても試合に出られるからです。

そのため、指導者はこの「危機感」をうまく与える必要があります。危機感を与えることで能力の劣る選手の向上心を高め、ボトムアップを図るのです。

(ちなみにマンモスチームは所属しているだけで危機感であふれているので、無理に危機感を与える必要はないと思います。マンモスチームで危機感を与えすぎると「チームに貢献したい」という気持ちを折る場合があります。)

危機感の与え方

続いて、危機感の与え方です。

僕はこの危機感(選手達へのプレッシャー)を以下の2つのように与えています。

①意識の問題と技術の問題を分けて考え、意識の問題に対して激烈に注意する

②そもそも能力の劣る選手を試合に出さない方針を伝えて戦術を組む

 

①はどこのチームの指導者も同じ考えだと思いますが、「チームの課題」は選手達の「意識」で解決するものがほとんどです。技術がボトルネックとなっているものは稀です。

そこで、意識で解決する問題についてだけ強く注意するのです。

例えば、岩手大では「疲れた時に膝に手を当てて下を向く行為」を禁止しています。もしこれを選手達がやった瞬間に僕は激烈に注意します。特にその行為をした選手の中に最上級生がいるときは容赦しません。最上級生は注意されることが少ないので、粛清させるためには指導者が言うしかないからです。

(ただこれには問題があって、僕も一緒にプレーに参加した場合、このルールによって僕も下を向けないことです。。現役を退いてだいぶ経つので相当苦しいです)

ちなみに「意識で解決する問題」は口酸っぱく言い続ける、または不意打ちのように指導者が激烈に注意することでしか解決しません。僕はどちらかというと激情型ではないので、不意打ちのような突然の激烈注意を狙っています。

それをすることで意外と深い意識づけができていると思います。

 

 

(めちゃくちゃ話脱線しますが…)

ちなみに、犬を飼っている方は共感いただけると思うのですが、犬のしつけにもこの「不意打ちのショック」が有効です。例えば、拾い食い、散歩中に飼い主のそばを離れてリードをぐいぐい引っ張ってしまう…といった問題行動に対しては、それをやった瞬間にノールックでリードを瞬間的に引っ張ります。それこそ小型犬であれば体ごと吹っ飛ぶくらいに。そしてすぐさま「ヨシヨシ大丈夫か~」と言いながらいっぱい撫でてあげます。攻撃したのは飼い主なのに、さもそれが天誅であるかのように振る舞うのです。すると犬は「そういう行動をするとまた怖い思いをするから絶対にやらない、そして不安になったらいっぱい撫でてくれる飼い主様のところに行けばいい」と覚えます。すると不思議なことに飼い主に寄り添うワンちゃんになります。

以下はそのようにしつけた我が家の愛犬ヒマちゃん(ミニチュアシュナウザー・6か月)のお散歩姿です。人のいない安全な場所でリードを完全に離していますが、従順にピッタリ寄り添ってくれています。

だんだん何のブログかわかんなくなってきました。

実は最近犬のしつけにハマっていて、どうしてもブログ内に挟み込みたくて無理くり挟んでしまいました。笑

これからは小ネタとして時々挟んでいきたいと思います。

(カテゴリーに「犬」も入れようか・・・)

 

話を戻します。

 

 ②は戦術に寄った話になります。「能力の劣る選手を出さなければいけない」という諦めは「ラクロスは選手交代が当たり前」という固定観念からきています。これまでのラクロスの戦術から考えると、少なくとも15人以上は試合に出ないと成り立たないというのが一般的です。僕はこれについてはギモンを持っていて、「パフォーマンスをあまり落とさずに10人ちょっとの人数で4Q戦い続けることは可能」だと思っています。正確な数字で言うと「11人」で戦えると思っています。このように思う理由は、ATとDFの体力が有り余っていることが多いからです。

DFは難しいかもしれませんが、ATはMFもやりながらフィールド内でうまく交代できれば、体力のバランスもとれて少人数で戦うことができます。

このような戦術を常態化させることで、能力がある程度高い選手だけで試合に臨むことができます。そしてそれは能力が低いと試合に出られないという危機感をチームに与えることにもなります。これにより「戦術」×「危機感」の相乗効果が狙えます。

※これらはあくまで少人数チームがマンモスチームと"まともに"戦うための策です。マンモスチームにはあまり当てはまりません。

 

【結論】少人数チームの戦い方

ここまでの流れをざっくりおさらいしつつ、僕が考える少人数チームの戦い方について結論をまとめます。

 

一般的なラクロスのゲームの進め方に当てはめて考えると、少人数チームはどうしても能力の劣る選手を出さなければいけない。そして、その能力の劣る選手がゲームの流れを大きく左右する

能力の劣る選手は致命的なミスをしがち。

そこで致命的なミスをしないためには「危機感からの後ろ向きの向上心」が必要。

指導者としては様々な方法で「ある程度の危機感」を与える。僕の場合、それが「意識の問題に対するアプローチ」と「能力の劣る選手は試合に出られない戦術」であり、それにより少人数チームでもマンモスチームと戦える素地ができる。

 

以上が僕の考える「少人数チームの戦い方」です。